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イメージアップを図るために考案

いまやポケットティッシュ作戦は、街角の風景を変えるまでになってしまいましたが、ティッシュに頼らざるをえないほどに、かつてはこの業界が追い込まれていたことは意外に知られていません。消費者金融業者に対するマスコミの対応は、「サラ金地獄」として報道される以前は読売新聞などが広告出稿を認めていましたが、朝日新聞は一貫して批判的で、70年代後半からサラ金批判のキャンペーン報道を展開していました。テレビCMでは、日本民間放送連盟が放送基準130条のなかで、「サラリーマン金融は取り扱わない」としてきました。

そのなかでただ1局、テレビ東京だけが放映を行ってきましたが、しかしいサラ金をめぐるトラブルの報道が続いたため、1977年3月で放送を中止し、70年代後半からは、新聞、テレビ、ラジオともサラ金関係の広告はいっさい受け付けませんでした。さらに、1983年にサラ金規制法が施行され、それまではサラ金は中小零細業者でも貸付残高を毎年倍増させることができたのですが、金利や回収面での規制が厳しくなったために多くが倒産、廃業に追い込まれ、大きな打撃を受けました。

また資金調達面でも、それまでは生命保険会社や外国銀行からの融資を多く受けていましたが、外国銀行が「サラ金2法案を成立させた大蔵省は、いずれサラ金をつぶすつもりらしい」と考えて融資を引き揚げてしまったため、準大手のヤタガイクレジットは1984年に不渡りを出して倒産し、同年、プロミスも倒産の危機に陥りました。このように資金繰りもままならないうえに、サラ金の悪いイメージも払拭できなかったのです。

こうした逆風のなかでも、消費者金融業者は自らの存在を告知していかなければなりませんでした。そこで考え出されたのがポケットティッシュ作戦だったのです。安価で消費者の生活に密着した品物だったために作戦は成功しました。その後、大手は株式上場を果たし、テレビCMも解禁になり、知名度もアップしましたが、その間の苦しい時代を支えたのが、じつはこのティッシュ作戦だったというわけです。ここにきて、業界を見る世間の目は厳しくなりつつありますが、それだからこそ、市民生活に根づいたティッシュ配りは重要性を増すことになるでしょう。

消費者金融業者が配っているポケットティッシュは1個いくら?

駅前などで、出勤途中、帰宅時間を中心にサラリーマンやOLに向かってポケットティッシュが差し出されています。これを広告媒体として最初に目をつけたのは、どこでしょう。武富士か、アコムか、それともアイフルか、プロミスか? 取材するとどこも、「うちが最初に始めました」と話します。いまとなっては調べようがないことですが、自動契約機と同様に1社が始めて効果があるとわかると、負けじとばかりすぐに2匹目のドジョウを追うところが、この業界の業界たるゆえんです。ティッシュ以前にも、チラシやマッチなどを配っていましたが、ティシュならば、男女年齢を問わず誰もが使うものですから、たいていの人は受け取ってくれます。自ら求める人さえいます。

そして、裏の台紙のサイズは7・3×10・4センチと大きいので、企業名や地図、営業時間やホームページのURL、金利や返済方法などたくさんの情報を刷り込むのに適している利点があります。また、ティッシュは原価が安く、配布を始めたころは1個当たり7円と廉価だったことも、採用された理由の1つだそうです。最近ではインターネットで発注すればさらに低コストになり、一個約4・9円ぐらいになっているようです。武富士の場合は、ティッシュ配りが社員教育の役目を果たしたといいます。同社はティッシュ配りにアルバイトは使わず、もし使ったとしても必ず社員を同伴させています。

新人を街頭に立たせるときにはビデオによるレクチャーを受けさせ、差し出すタイミングやお辞儀の角度など、細かい指示を与えているそうです。しかしその一方で、同社支店長のサービス残業が訴訟問題になったとき、同社の過酷な時間外労働の一例として、朝7時から駅前のティッシュ配りがあったことには驚かされました。以前は、大手の消費者金融のすべてがティッシュ配りをやっていましたが、最近は中止したところもあります。プロミスやアコムはあまり見かけません。その一方で、武富士やアイフルは盛んに配っています(武富士は盗聴事件後から自粛)。ところで、ティッシュの紙の質や量は会社によってずいぶん違います。アイフルのテイッシュの表には、「水に流せるティッシュです。

外袋・台紙はくずかごへ」というコピーと、非木材紙を使用しているという「TREE FREE」マークが入っています。つまり、環境配慮型のティッシュというわけです。じつは、これまでよく使われていたティッシュは水に溶けにくい紙質でした。このため、公衆トイレでこれを流すと排水パイプが詰まり、またなかなか分解しないので汚泥の原因にもなっているといわれていました。そこで、「ポケットテッシュは流さないでください」という貼り紙を出すところもあったほどで、「トイレで使えないからティッシュはもらわない」という人もいたくらいです。

また、非木材紙とは、サトウキビの絞りかすや稲わらなど、農産廃棄物の繊維からつくった紙のことで、この紙の売上金の1%は「TREE FREE FUND」に積み立てられ、環境保護に役立てられています。大量のティッシュを配布し、それが宣伝媒体の柱となっている消費者金融会社には、このような環境配慮型ティッシュを使用し、企業イメージの向上を目ざそうという姿勢がみえます。業界最大手の武富士が配るティッシュはさすがに太っ腹で、私が調べた範囲では、どこよりも枚数がたくさん入っています。

同社は近所のスーパーや商店などに頼んで、店頭にダンボールごとティッシュを置かせてもらい、「ご自由にどうぞ」という張り紙をして、来店客がそこから持っていけることもしています。同社のティッシュが意外なところで活用されたことがあります。2001年5月に起きた武富士弘前支店の放火殺人事件のことです。男が現金を要求して放火し、5人の従業員が殺害されました。同社は犯人逮捕に向けて、宣伝配布用ティッシュに犯人の似顔絵を入れて、弘前、黒石、青森の各市の駅前などで、社員約50人が協力し、2万6000個以上を通行人に配り、情報提供を呼びかけました。その結果、犯人の男は逮捕されました。似顔絵が犯人とそっくりだったからです。

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